教えてドクター「つまりヘルメット治療ってなんですか?」 #1

ヘルメット治療の話
癒しや愛おしさであふれる赤ちゃんとの生活。
一方で、怒涛の日々を送る中での心配事も尽きません。
その一つが赤ちゃんの頭のかたちです。
現在では「赤ちゃんの頭のゆがみ=ヘルメット治療」として知られるようになってきましたが、まだまだ認知は低いのが現状です。
治療内容はもちろんどのくらいの費用がかかるかなど、わからないことやヘルメット治療に対して不安に感じることも多いでしょう。また、治療方法は知っていても具体的なことは分からないという人もいるはずです。
そこで、皆さんが疑問に思っているヘルメット治療のあれこれを、赤ちゃんの頭のかたちサポータズ代表である波多野さんが、ヘルメット治療を行っているお医者さんに話を聞いてきました!
2回にわたっての対談の様子をお届けします。
Profile

赤ちゃんの頭のかたちサポーターズ代表
波多野麻美
株式会社ハタノシステム代表取締役専務
・公益財団法人東京青年会議所 第68代理事長
・東京愛宕ロータリークラブチャーターメンバー
・2016年東京都男女平等参画を進める会 委員
・2016年東京都女性活躍推進協議会 委員
・青山学院大学国際マネジメント研究科修士課程修了(MBA)
2018年より「ダイバーシティマネジメント」を主としたテーマで講演活動を開始。現在まで約4,000人以上の企業のリーダー達に講演を行った。メディア・イベント出演:ニッポン放送「渡部陽一の明日へ喝!」ゲスト出演、「ダイバーシティフェスティバル2022」小池百合子都知事と対談

Profile

医師
小室 広昭
0歳からの頭のかたちクリニック 理事長
1984年東京大学医学部医学科卒業。東京大学小児外科学教室入局。
東大病院、日本赤十字社医療センター、埼玉県立小児医療センター、St.Jude小児病院留学などを経て、1997年より自治医科大学講師。
2000年より筑波大学講師および准教授。2011年より東京大学小児外科准教授。2013年より上尾中央総合病院小児外科科長ならびに埼玉医科大学病院客員教授。現在に至る。

波多野
今回は赤ちゃんの頭のゆがみやヘルメット治療について、小室先生にお伺いできればと思っています。
どうぞよろしくお願いします。

医師
よろしくお願いします。

頭のゆがみは生後1~2か月ごろの予防的な処置が有効

波多野
早速なのですが、そもそも赤ちゃんの頭のゆがみを自然に治すことはできるのでしょうか?
というのも、私の場合、出産したときに赤ちゃんの頭のゆがみを意識していなくてですね…。定期健診のときに「頭の形ゆがんでますね」と言われて、ハッとしたんですね。産後で母体の回復が十分でない中で、赤ちゃんのお世話に必死になっているときだったので、赤ちゃんの頭の形まで気にかける余裕がなくて。
「頭の形とかそういう観点ってあるんだな」と思ってちょっとドキッとしてしまったんです。

医師
そうでしたか。赤ちゃんの頭のゆがみは”生後1〜2か月ごろが最も変形しやすいので、予防的処置をするのもこの時期が有効”という風に言われています。大体生後3〜4か月になると、睡眠時間が長くなります。そうなると、後頭部に長時間圧がかかってしまうので頭のゆがみの助長につながりやすくなります。

頭のかたちにゆがみのある赤ちゃんは「この子、よく寝てくれて手がかからないなぁ」と感じる赤ちゃんに多い傾向があります。よく泣く赤ちゃんは抱っこする機会も多いので、それだけ後頭部に圧力がかかる時間が少なくなります。

また、向き癖があって頭の左右のどちらかが平らになると、そちらに向いたほうが座りがいいので、さらなる頭のゆがみの悪化につながります。生後1〜2か月のうちに自分で同じ方ばかりを向いてしまう傾向があり、生後3か月になってある程度重症化していると、そこから向き癖を直すのは難しいです。。

波多野
なるほど。向き癖がついてしまうと向き慣れた方が赤ちゃんとしては心地良いから、どんどん直らなくなるんですね。

医師
そうですね。頭が平らな方で寝る方が安定するので、赤ちゃんもその安定する方を好んで寝てしまう傾向にあります。

赤ちゃんの頭のゆがみを放置するとおこる3つのリスク

波多野
もし向き癖がついたままだとして、頭のゆがみをそのまま放置しておくとどうなってしまうのでしょうか?

医師
そうですね。私は頭のゆがみで起こるリスクは3つあると考えています。

非対称になることでおきるカラダの不具合

医師
1つ目は頭がゆがんでいることで頭蓋骨の左右が非対称になることです。同じ向きばかりに圧がかかると、耳が前に出てしまったり、おでこが出てしまったりして、顔の形にも影響を及ぼす事があります。また、それに伴って噛み合わせにも影響があると言われています。
身近な例でいえば、将来眼鏡をかけにくくなる、斜視などの影響が考えられます。体のちょっとした不具合でいろいろなところに影響が出てくる可能性があります。

あとは、頭だけではなく、首から下の部分にも影響が出てくる可能性もあります。
頭のゆがみが影響して、身体の筋肉の使い方が非対称になる事があるので、例えば、肩凝りや頭痛、背骨が曲がるなど、体幹と言われる部分に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、酷いケースで言うと、頭の向きと反対側の赤ちゃんの脚が伸びてしまう事があり、そうすると、股関節が外れやすくなることもあります。こうした影響は頭が歪んでいる赤ちゃんすべてに出るわけではありませんが、少なからずそうしたリスクが潜んでいる事になります。

波多野
そんなにリスクが潜んでいるんですね。

向き癖で頭が圧迫されるため、発達にも影響がある?

医師
2つ目のリスクは、頭が圧迫されるので発達に影響があるかもしれない事。いくつかの論文でも脳のゆがみにより発達が遅れる可能性があるということは言われています。

最終的に斜頭がある人とない人を比べると、発達に影響がある、とされている論文は多数あります。しかし、それは元々発達に影響がある人が斜頭になりやすいからかもしれず、斜頭による脳への影響があるかないかについてははっきりした結論は出ていません。

ただ例えば、頭のゆがみが左右どちらにあるかによっても影響が違ってきて、右斜頭だと右脳に影響がでて、左斜頭だと左脳に影響がでて、左斜頭の人は、言語や論理的思考が鈍くなるなどの学業アカデミックパフォーマンスが下がるということも言われています。怖いですね。

波多野
そうなんですね。

医師
そうしたことを踏まえると、頭のゆがみが脳に全く影響しないかということはわかっていません。ただ、脳には順応性があるので、初期段階では異常があっても時間が経てば、頭の歪みに脳が順応していくのかもしれません。結局のところ結論は出ていませんが、頭のゆがみが脳に影響があるという可能性は否定しきれないのです。

見た目の問題で思春期の大きな悩みに

医師
3つ目は見た目の問題です。これはやはり物心がつくようになって本人が悩むケースも多いと感じています。

頭の形で悩む人にとっては、もしかしたら見た目でからかわれるかもしれないという不安が募る場合があります。頭の形で悩む時期には頭の形は完成しているので物理的な解決はできません。そうしたことを踏まえると、人生100年と言われる時代ですから、決して費用は安くはありませんが、ヘルメット治療も1つの選択肢と考えても良いのではないかと思います。

波多野
後々本人が直したくても直すチャンスがないですものね。頭のゆがみって、私が思っていたよりも沢山リスクが潜んでいるようです。私は実際に子どもにヘルメット治療を受けさせましたが、治療前と治療後の頭の形の変化を見て、ヘルメット治療をしてよかったって思いました。

ヘルメット治療とは?

波多野
続いてはヘルメット治療について教えてください。そもそもヘルメット治療とはどういうものなのでしょうか。

医師
ヘルメット治療とは、赤ちゃんの頭のゆがみを改善するために行われる矯正治療のことです。頭のかたちがやわらかい生後2〜6か月が治療開始の適齢期とされています。

まずは、赤ちゃんの頭の形を専用のスキャナーでスキャンして、スキャンしたデータを元に、頭の形の左右対称が理想となるような、最終的な頭の形のデータを設計します。
そのデータを元に、3Dプリンターでその赤ちゃん専用のヘルメットを作成します。

完成した理想形のヘルメットを赤ちゃんに被せることで、ヘルメットで頭を保護しながら、すでに変形して平らになってしまった部分の成長を促して、自然な頭のかたちへと近づけていく。これがヘルメット治療です。

波多野
先ほどヘルメット治療の開始時期は「2〜6か月」とおっしゃっていましたが、なぜ治療開始はこの時期になるのでしょうか?

医師
赤ちゃんの頭の成長は、生後3〜4か月ごろまでに急激に成長し、その後だんだんとゆっくりと成長していきます。この成長する生後3か月~8か月の時期に治療を開始することが理想的です。3か月未満の早い時期では頭の大きさが急激に変化しすぎてしまいますし、反対に遅い時期だと頭の形がほぼ完成してしまいゆがみを直すのは難しくなってしまいます。

波多野
なるほど。ヘルメット治療では、よく首が座ってから開始などと言われていますが、その点はいかがでしょうか?

医師
それはあまり関係ありません。勿論、生後3か月になると首が座っている赤ちゃんもいますが、中にはまだ首が座っていない赤ちゃんもいますし、生後2か月でヘルメット治療を開始した赤ちゃんもいました。ただ、やはり生後2か月では頭の成長が早過ぎるので、ヘルメットによるしめつけのため新たな頭のゆがみが生じる可能性もあります。そうしたリスクもあるので、生後3か月以降がヘルメット治療スタートの適正時期になります。

6か月程度続くヘルメット治療の流れとは

波多野
最後にヘルメット治療の流れを教えてください。

医師
ヘルメット治療は、まずは頭のゆがみの受診可能な医療機関での診察から始まります。診察では問診、触診・視診、レントゲン、カメラスキャンを行い、ゆがみの原因や程度を診断します。

その後、頭の形のスキャンデータを作成し、赤ちゃん一人ひとりに合ったヘルメットを作成します。ヘルメットが完成したら、お風呂以外は可能な限りへルメットを着用してもらい、毎日23時間以上の着用推奨し、約4〜6か月程度ヘルメット治療を続けます。

基本的にはスキャンデータを作成してから、約2週間後にはヘルメットが完成します。病院によって違いがありますが、私の病院では、治療開始から1か月ごとに毎月通院してもらい、毎回スキャンして頭の形を確認し、親御様の悩み等もお聞きしながら治療を進めていきます。1か月ごとの変化を可視化できるのは、親御さんも安心して治療を受けられる要素のひとつではないかと思っています。

波多野
1か月ごと!それは良いですね。スキャンデータで変化が目に見えて分かると、モチベーションにもなりますよね。

医師
そうですね。ヘルメット治療ではゆがみの程度を数値で表し、客観的なデータを元に治療方針を説明させていただきます。数値を元にした方針なので、親御様も安心して治療を継続できるのではないかなと思っています。

波多野
毎回スキャンしてもらって前後の数値で比較出来るのは、治療を継続するうえで安心できますね!

最後に

赤ちゃんの頭のゆがみが気になったら、早いうちに専門の医療機関を受診することが悩みを解消する一歩です。しかし、治療を決断するためにはできる限り情報収集して、後悔のない選択をしたいと思うのもまた親心でしょう。

次回の対談では引き続き赤ちゃんの頭のゆがみやヘルメット治療について、小室先生と波多野さんの対談の様子をさらに内容を掘り下げてお届けします。お楽しみに!

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